udonosbanner_01_500.jpg

women01_header.jpg

HOME > Exhibition >  女 | 性 | 像 #1 > 音羽晴佳インタビュー

women01_logo.jpg

artist interview

音羽晴佳インタビュー


先人の女性たちへ自然に敬意を払いたいという気持ちに変化していた頃で、ちょうど展覧会のコンセプトとリンクしていました。

エキシビション「女 | 性 | 像 #1」参加作家の音羽晴佳さんに展覧会に参加した感想や制作について伺いました。
(インタビュアー;柚木康裕 オルタナティブスペース・スノドカフェ代表)


柚木 自己紹介をお願いします。

音羽 2011年に女子美術大学絵画学科洋画専攻を卒業しました。もともと自由な表現がしたくて油絵科を選んだのですが、入学後2年くらいは受験の流れのまま平面を制作していました。だんだんと絵具だけを使用することに窮屈さを感じだし、もともと平面に何かをきっちり収めることが苦手なのもあって、コラージュなどをするようになりました。レースやぬいぐるみを貼り付けたり、刺繍をしたり、床までリボンを垂らしてみたりして、自然と平面から立体へ、立体からインスタレーションへと移行していきました。

柚木 展覧会「女 | 性 | 像」は女性5人が参加して同性ならではの交流が生まれたと思いますが、今回参加してどうでしたか。

音羽 静岡の作家さんと会えたことがよかったですね。皆さん芸術に真摯に向き合っていて刺激になりました。仕事や子育てなど様々なライフスタイルで制作に取り組んでいる作家にお会いできて“女性作家”として今後生きていくイメージが膨らみました。

柚木 東京から帰ってきて2年ほど経つけど、そのような制作に励みになるような出会いはなかった?

音羽 積極的に探していなかったですね。あまり制作がはかどっている時期でもなかったので、あえて接触を避けていたところもありました。前の個展(花嫁人形@静岡市クリエイター支援センター)から出会うようになってこんなに励みになるものかと驚きました。学校だと一緒に制作するのが当たり前でしたが、社会人になると一人なので。

柚木 「女 | 性 | 像」というテーマにどんな印象を持ちましたか。

音羽 まずは自分が考えていたようなことをテーマにしている展覧会に誘っていただけて光栄でした。笑)
もともと先人の女性たちのことをしっかり考えなければいけないといった使命感のようなものを抱いていたのですが、もっと自然に敬意を払いたいという気持ちに変化していた頃で、ちょうど展覧会のコンセプトとリンクしていました。

otowa101.jpg

[ 展覧会データ ]

エキシビション「女 | 性 | 像」#1
 『 5 o'clock in the morning 』

 会期:2014.1.10(fri) - 1.27(mon) 12:00 - 19:00
 休廊日:火、水/closed on tue., wed.

[ 参加作家 ]
 ・岩本ゆうな(写真)
 ・音羽晴佳(ミクストメディア)
 ・後藤和美(写真)
 ・寺田佳子(ドローイング)
 ・丸山成美(彫刻)


otowa102.jpg”花嫁人形”のためのドローイング(部分)

otowa103.jpg会場風景








otowa104.jpgアーティストトーク

柚木 もともと前回の個展でも取り組んでいたけど、それを一歩進めるような感じだったですか。

音羽 私は普段、女性がテーマであるとは言わないようにしています。もっと普遍的なことに取り組んでいるつもりなので。性別を問わずいかに自分の、あるいは相手の境界線を守るか、ということをテーマとしています。ただ、これまで女性がどのように生きてきたか、またどのように今後生きていくのか、という問いは私の制作動機の根底にあり、ライフワークとも言える大きな関心事ではありました。なので、今回は女性像というテーマを与えられたことで、日頃言わなかったことや薄めて言っていたことを堂々と語れて嬉しかったですね。

柚木 それはよかった。笑)
大学で美術教育を受けてきたので、プレゼンの経験などがあることが見て取れましたが、地方ではそのような機会が少ないと思います。今回は作家にそのような機会も与えたいと考えて展覧会の企画を行いました。作家として今回の展覧会は役に立っていましたか。

音羽 はい、とっても。アーティストトークでは気持ちが伝わったのか不安だったんです。私の作品はとても個人的なことが出発点になっているので。でもトーク終了後に女性の方々は話し掛けてくれて、私がシンパシーを感じることを言ってきてくれるのです。私の母親はどうでね、ああでね、そして子どもを生んでからこう思ってね、ああ思ってねって。すごく共感してくれているのが分かり、とても安心しました。ちゃんと伝わっているんだなって実感がありました。

柚木 みんなが共感することが作品に含まれているってことですね。

音羽 女性ならみんな分かる、娘だったことがある人ならみんな分かると言ってくださりました。

あの歌は母親から娘へ、へその緒が切れていないかのように伝染していく空虚感や闇みたいなものの比喩です。


柚木 前回の個展「花嫁人形」について少し尋ねます。どこから作品作りが始まりましたか。

音羽 ゆりかごのインスタレーションのイメージが3年前からありました。でもどう表現したらいいか見えず、しばらく思案していました。

柚木 インスタレーション以前から人口の髪の毛を使ってますよね。髪の毛を使いだしたころには構想が出来つつあったのですか。

音羽 ゆりかごに髪の毛を使おうと思ったのはもっと後になってからです。卒業制作を作り始めたあたりから、髪の毛よりもスカートのようなものを意識していました。分断する、閉じ込める、隠すというような展示方法に興味を持っていて、あのインスタレーションのスカートも中に入れないように、裾はしっかり鉄の輪っかで止めています。

祖母が台所で歌う歌を聴いていてインスピレーションを感じていました。私も歌ってその譜面を並べたらどうかなと思い、それが「花嫁人形」という展覧会全体のドローイングに発展しました。そこで初めて何をどの素材で作るかが決まったという感じです。蚊帳に込める意味、ゆりかごに込める意味、髪の毛に込める意味もそれにより明確になりました。

あの歌は母親から娘へ、へその緒が切れていないかのように伝染していく空虚感や闇みたいなものの比喩です。それらを言葉にすることは困難で、曖昧で人によって捉え方も違います。そのことを視覚化する試みとしての楽譜なのです。真ん中に配置したのは「包むように遮って、守るように、静かに 閉じ込める」(花嫁人形で制作されたインスタレーション)のドローイングで、これは楽譜で指し示しているものが継受される場を表現しています。私にとって言葉も大変重要な素材で、ドローイングと同じように出来るだけたくさん書き出すようにしています。あのインスタレーションは「2人きりという密室における暴力」という言葉と結びついていました。でもそれでは狭義的になってしまうので、攻撃性を薄めた言葉にしていきました。

柚木 それが「優しくて息苦しい」のような言葉に変わるということですか。

音羽 そうです。インスタレーションに使用した蚊帳については、以前は化繊も使っていたのですが、あえて自分の肌感覚に近い麻を使うことで、皮膚に近い優しさや自然すぎて気がつかないという意味を込めました。人と人の関わりは本来優しいものであるはずですが、目には見えないものですから、周囲も、自分自身でさえ気がつかないまま暴力的な支配関係になってしまうこともありえます。

柚木 それは母娘関係でもありえるということですね。

音羽 親子はもちろん、恋人でも、職場の人間関係でも、人と人が関わる場であれば、どこでもあり得ることです。

柚木 音羽さんにとって女性らしさとは一言で何ですか。

音羽 強さ、優しさ、柔軟さ、しなやかさ、儚さ、誠実さです。
一言じゃなくてすみません。笑

柚木 ハードルが高そうですね。笑
では男性らしさとは。

音羽 女性とまったく同じですね。人間らしさを答えてしまったようです。とくに柔軟さが必要な方が多い気がします。笑

otowa105.jpg「包むように遮って、守るように、静かに閉じ込める。」2013年

otowa106.jpg



otowa108.jpg「みつめる、愛子」2013年


otowa107.jpg女子会的トークの様子。男性の参加もあり、多様な意見が交わさせました。


otowa201.jpgパフォーマンス「ラプンツェル」2009年





otowa110.jpg




otowa111.jpg芸術批評誌「DARA DA MONDE」第3号のworkspaceページで音羽さんの創作風景を紹介しています。静岡発!芸術批評誌「DARA DA MONDE」

柚木 展覧会終盤に企画した女子会的トークでは、ナビゲーターをお願いした中村ともえ先生(静岡大学准教授、近現代文学)が、近現代の女性詩を出発点にして、女性の社会進出やライフワークバランスなど周縁や境界について話題にしてくれたのは、面白かったのではないですか。

音羽 そうですね。詩(征矢泰子「輪郭」)も自分の今考えている作品にドンピシャでした。作品作りを仕事と呼ぶかという話がありましたが、今の若い子たちはなかなかそうは言わないと思います。仕事が自分の生活と切り離されているのを感じるので。本当にしたいことがあるが、それを達成するためにお金を稼ぐ手段としての仕事という構図です。そういう意味では仕事という言葉の価値が下がっていると思います。なので私は、作品作りは仕事と呼べなくて、私の作品ですという以外に言葉が見つからないでいます。

柚木 静岡で現代アートを続けて行くプランはありますか。もちろんアート自体は地域に縛られるものではないので、あくまでも静岡は拠点という考えもできると思います。外(主に東京)に向けて積極的にアピールしていきますか。

音羽 まずは制作することを続けていきたいですね。そして、それぞれの作品に合った場所で発表していけたら嬉しいです。静岡でも少しずつアートに関われるスペースが増えつつあるようですが、そういった場所があるだけでも意味があると思います。現代アートと一緒で、見て分からないという人もいますが、私はそれにも意味がある経験だと思っていて。分からないことを分からないままに受け入れる力が今まさに必要です。何だかわからない所が街にあって、何だか分からないけれど面白いと思う人がいることで、もっと多様性を認められる街になっていけるという希望があります。静岡ではそれが出来そうな気がします。

それに地方で活動することが今の自分にとって都合がよいのです。私の作品は地方があっているように感じるし、地方に根を張って活動することが精神衛生上いいですね。そのほうが作家として成長できると見込んでいます。

柚木 現代アートを定義するのも難しいのですが、その可能性はどのようなところにあると思いますか。

音羽 世の中は変わらなければいけないことがたくさんあります。例えば差別がいけないこととわかっていてもなくならないですよね。それは差別が人の心に中にあるからだと思います。人の心を柔軟にさせる、意識を変えることってすごく難しい。それが出来るのがアートの力だと思っていて、そこにすごく可能性を感じます。単純に女性問題を考えるのならアクティビストになればいいという考え方もあります。でもちょっと私のしたい伝え方とは違うんです。同じことを伝えるにしても、伝え方はたくさんあって、例えば戦争反対だってコンセプトの作品があるとして、正面から戦争反対だと言っても、皆さん「知ってるよ!お前に言われなくても」となりますよね。でもお婆ちゃんから「私、戦争中だったけど恋をしていたの」という話を聴いたほうがぐっと入ってくる。自分も知っていると感じられるデティールにスポットを当てることで、自然に、想像する力を引きだしていく。アートはそういうことが可能なんですよね。その過程がまた、たまらなく美しいと思うんです。

柚木 社会的な問題を現代アートは扱うけど、何でアートなんだろうかって感じることがあります。先日シンガポールトリエンナーレで観た絵画でもそんなことを感じました。主題が森林伐採による村の崩壊だったけど、それは説明がなければ絵だけでは気付くことがなかったのです。説明で初めてわかることがあって、例えばその伐採された木の70%くらいが日本に輸入されているとか。。明らかに社会問題を扱っているのだけど、これって何で芸術でやっているのだろうと考えるわけですよ。それよりもう少し分かりやすく(言葉で)説明して、違う形で発表をし、、。でもそれってだぶんやっているんだよね、誰かが。

音羽 そうですね。誰かが。

柚木 その時に芸術でしか出来ない何かがあるからこそ、絵を描いて伝えていると思うのだけど。はっきりしたことは分からないけど、非言語としての絵の役割りはやっぱりあると思う。
そうでなければアクティビストになればいいじゃんって感じだけど、いやいやそれは違うんだよって思うし。

音羽 違うんですよね。もっと優しく心に入っていきたい。見落とされがちなデティールをテーマとして扱うことができるのも、アートの良いところです。

柚木 「知っているよ!」って言葉ほど美術家にとってつまらない言葉はないし、そう言われたらダメですね。

音羽 声は張り上げて主張するのではなく、例えばオノヨーコが抗議しにいく時に、一緒に花束を持っていくような感じ。そういう新しい声のあげ方。その姿勢を持てることが私の考える美しい人です。弱さも放っておくと落とし穴になりますが、ちゃんと見つめればパワーになりますから。弱さと強さと愛情は仲良しなんです。

柚木 最後に美術家としての覚悟を教えてください。

音羽 作ることに生き甲斐を感じています。そして語ることにも。作ることを通して、私が考えている問題の本質に到達できればいいと思います。

柚木 今日は長い時間ありがとうございました。

(2014年2月28日、オルタナティブスペース・スノドカフェ、GALLERY UDONOSにて)

音羽晴佳 OTOWA Haruka

otowa112.jpgミクストメディア

1989年生まれ。
現代美術家。女子美術大学絵画学科洋画専攻(油絵科)卒業。
女子美大を卒業後、静岡の実家に戻り自室をアトリエとして制作に励む。直近の個展では、親密な者との間にみる同一化や依存の関係、その境界をインスタレーションの手法で表現した。家族、檻、頭髪、ドレスなどのモチーフは「女性」であることの興味が色濃く反映されている。



主な展覧会
2008年 選抜学外展女子美スタイル☆最前線2008 (BankArt studio NYK/神奈川)
    女子美術短期大学部卒業制作展(卒業制作賞受賞)(杉並キャンパス
2009年 はみだしたいやき展 09(清水文化センター/静岡)
2010年 3人展(ターナーギャラリー/東京)
2011年 選抜学外展 女子美スタイル 最前線2010(BankartNYK/横浜)
    東京五美術大学連合卒業 修了制作展( 国立新美術館/東京)
    女子美術大学卒業制作展 (相模原キャンパス)
    はみだし’11 (清水文化センター/静岡)
2013年 正方形展2013 (アートスペース羅針盤/東京)
    NCC Shizuoka 2013 企画展公募EXHIBITIONS
     ∟ 個展 花嫁人形 (静岡市クリエーター支援センター/静岡)
2014年 女 | 性 | 像 #1 - 5 o'clock in the morning -(GALLERY UDONOS/静岡 )
    正方形展2014(アートスペース羅針盤 東京)
    思考を刷る(Gallery Pumpkin2 静岡)

展覧会によせて
音羽晴佳

『5 o’clock in the morning』という美しい展覧会名を聞いた時に 私は色んな立場の女性の朝を思い浮かべました。
朝の5時、誰かのお弁当を作っている。 パジャマにエプロン、静かで薄暗いキッチンに立つ女性。
朝の5時、ゴミを抱えて玄関を出る。 会社に向かう道すがら、コンビニで朝ごはんを選ぶ女性。
朝の5時、仕事帰りの電車に乗る。 子供を起こさないように、静かに化粧を落とす女性…
女性の社会進出が一般化した現在、女性の生き方は多様になりました。
しかしながら、女性1人1人がその人らしく生きるためには 超えなければならない壁が未だたくさん存在しています。
私は政治家ではないので、制度を変えるような大きな力はありませんが、個人の意識の湖に小さな石を落としてみる、
そんな、強くて、優しい力がアートにはあります。
時代は変化し、女たちの夜の時代は終わり、 朝の時代を迎えようとしています。

ー女たちの夜明け前ー
この夜明け前の時代を生きる女が何を想い、どんな風に生きたか、 作品を通して記録していけたらいいな、と思っています。
夜の時代を生きてきた女たちに、敬意を込めて。

出展作品
[ title ] 夜明け前の標本「midori」
[ material ] アンティークロケット、銅板に写真製版、標本箱、虫眼鏡

[ title ] 夜明け前の標本「aiko」
[ material ] アンティークロケット、銅板に写真製版、標本箱、虫眼鏡

[ title ] 夜明け前の標本「yayoi」
[ material ] アンティークロケット、銅板に写真製版、標本箱、虫眼鏡

[ title ] “花嫁人形”のためのドローイング
[ material ] 紙、楽譜

otowa_work02.jpg

otowa_work01.jpg